「うちは残業代込みの給料なので残業代は払わない」と言われています
質問
会社は「残業代込みの給料なので、残業代は一切払わない」と言っています。
実際には相当の残業をしているのですが、残業代はもらうことができないのでしょうか。
回答
質問のケースは、会社が「みなし残業手当」を採用しているものと考えられます。「固定残業代」とも言われます。これは、一定時間、例えば月20時間分の残業代として、給料に加えて毎月4万円を残業していなくてもしても毎月払うというものです。「みなし残業手当」を採用すると、一見給料が多いように見えるので、採用に有利として使われる面もあります。たとえば、給料20万円で募集するよりも、給料24万円(ただしみなし残業代含む)と募集した方が採用上見栄えが良くなるので有利という思惑です。
しかし、この場合でも、法的には、月に20時間を超えて残業していれば、従業員は会社に対して20時間を超えた時間の残業代を請求できます。その意味で「これ以上に残業代は払う必要がない」のは違法です。したがって質問者が月20時間を超えて残業していたのなら、超えていた部分について残業代を請求できます。
さらに、「みなし残業手当」が認められるには以下の要件を満たす必要があります。もし本件の会社が以下の要件を満たしていなければ、「みなし残業手当」自体が認められません。その場合は、月20時間までの時間も含めて、全ての残業代を請求することができます。
「みなし残業手当」が認められる要件は
1)基本給部分と残業代の部分が明確に区別されている
通常の賃金にあたる基本給部分と、時間外の割増賃金にあたる部分が明確に区別されていることが必要です。これは、固定・定額部分が妥当な金額なのかどうかを判断するためです。
2)みなし残業手当が労働者に明示されている
みなし残業手当も労働条件ですので、みなし残業手当が労働条件になることをあらかじめ
(あ) 就業規則に記載されて知らされている
(い)個別の労働契約に明記されていること
ことが必要です。
この「みなし残業手当」が認められる要件をみたしているかをチェックしましょう。
課長に昇格したのですが、管理職になって管理職手当が支給されるので残業代はでないと言われました。
質問
課長に昇格したのですが、管理職になって管理職手当も支給されるのだから、残業代はでないと言われました。しかし、課長になると仕事が増えて残業は以前より増えています。それでも残業代は請求できないのでしょうか。
回答
質問の方が、労働基準法(41条2号)上の「管理監督者」にあたらないのであれば、残業代を請求できます。労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかと、会社の中での管理職の地位とは別のものです。一般的には、「管理職」の範囲よりも労働基準法上の管理監督者の方が相当に狭いと考えて良いでしょう。したがって、会社が「管理職」に昇格させたとしても、労働基準法上の管理監督者にはあたらず、残業代を請求できる場合もありえます。
労働基準法(41条2号)の規定では、管理監督者とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」と抽象的な定義です。
過去の裁判例の判断基準では、おおむね以下の要素を総合考慮して導かれています。
- 当該者の地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること
- 勤務態様、とくに自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
- 一般の従業員に比較してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること
所謂中間管理職の方が上記の管理監督者と認められる要件を満たすのはなかなか難しいとも言われます。「部下が数人いる」だけでは「管理監督者」と認められるのに十分とはいえません。
要件1の「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある」とは、部下について人事権の一部を持っている(例えば、人事評価権の一部を持っている)だけでは足りず、採用や昇格・昇級について相当な権限を持っている(任されている)レベルと考えられます。そこまでの人事権を持っている管理職は多くはないでしょうから、ハードルは結構高いのです。
そこで、訴訟で争われると、会社の中では「管理職」であっても、労働基準法(41条2号)上の「管理監督者」とは認められず、残業代請求が認められる例も多いのです。
したがって、相談者が会社の中でどのような権限を持っていて処遇を受けているのか具体的にみながら、労働基準法上の管理監督者にあたるのか検討したら良いでしょう。
年俸制なので残業代は請求できないと言われています。
質問
「年棒制なので、残業代は全て込みなので、残業代はなし」と言われています
残業代は請求できないのでしょうか
回答
年棒制でも、労働基準法上の管理監督者管理監督者にと認められない限り、残業代は請求できます。
一般に年俸制は会社内で地位のある程度ある人に適用されるので、管理職に残業代を払わないとすることと同じ意識で、残業代を支払わないとする会社もあるようです。
しかし労働基準法上の管理監督者にあたるかどうか、つまり法的に残業代の支給対象外として認められるか否かは、前述の労働基準法(41条2号)の規定及び裁判例の基準によって決められますので間違いです。質問者の実際の会社内の地位や権限、勤務実態が管理監督者と認められる要件を満たしていなければ、法的には管理監督者にあたらないので、質問者は残業代を請求できます。
タイムカードがないので、これまでの退出時間を証明できる正式な記録がありません。
質問
残業は相当にしているのですが、勤務先会社はタイムカードがないので、これまでの退出時間を証明できる正式な記録がありません。タイムカード等の記録がなくとも残業代を請求することができるのでしょうか。また、退出時間を示す資料が見つかったとしても一部の期間だけだと、他の期間の請求はできないのでしょうか。
回答
タイムカードがなくとも、いろいろな資料から残業時間を示すことができます。また、一部の期間しか記録がなくても全体の期間の残業代の請求ができる可能性はあります。
タイムカード以外で残業時間を示す例として、会社のパソコンから仕事上のメールをしていたとしたら、そのメールの印刷があれば、その時刻まで仕事をしていたのだろうと推測できる証拠とすることも可能です。毎日自宅に「帰るコール・帰るメール・Line」をしていたら、それらの記録も証拠になります。
さらに、毎日退社時間を自分ノートにメモ書きしていたとしたら、それらも証拠になる可能性があります。裁判では、家族が帰宅時間を毎日メモ書きして保存していたところ、「信用性がある」として証拠として認められた例もあります。
また、弁護士を通じた交渉によって、質問者が持っている資料に加えて、会社が持っている資料の提出を求めることも可能です。例えば、会社パソコンのログイン・ログアウトの時間を、システム部門から提出させることもできます。また、会社から最後に退出することが多かった従業員の場合では、ビルのセキュリティー会社に保存されている最終退行のシステム上の記録を、会社を通じてセキュリティー会社に提出させることで、残業時間を証明した例もあります。
このように、いろいろな手段で退社時間を示すことができるので、あきらめずに証拠を集めることが非常に大事です。
また、一部の期間しか証拠がみつからなかったとしても、業務量がほぼ年間で一定であったと認められる場合には、他の期間も同じように残業していたのだろうと推測が可能な場合もあります。
「うちの会社は裁量労働制を取っているので、残業代は払わない」 と言われました。
質問
「うちの会社は裁量労働制を取っているし役所に届出もすませてあるので、残業代は払わない」 と言われました。 毎日10時間以上働いていますが、残業代の請求はできないのでしょうか。
回答
裁量労働制とは、労働時間を実際に労働した時間ではなく、あらかじめ決めた一定の時間とみなす制度のことです。 あらかじめ1日8時間勤務したとみなしておけば、実際には6時間しか働いていなくとも8時間勤務したとみなされます。裁量労働制の特徴として、出退勤時間の制限が無くなり、実労働時間に応じた残業代は発生しません。裁量労働制は本来は労働者に自由に働く環境を保証する制度なのですが、悪用されると、実際には毎日10時間働いているのに、8時間勤務とみなされて、残業代が支払われないということもありえます。
裁量労働制でも、残業代を請求できる場合があります。 例えば、夜10時を超える深夜残業や休日労働の場合は残業代の請求ができます。また、あらかじめ決めた一定の勤務時間が1日8時間を超えている場合も、8時間を超えている勤務時間の残業代の請求ができます。
さらに、裁量労働制が認められるためには、法律の定める一定の要件や手続きを経る必要がありますが、その要件や手続きを満たしていないケースもよくあります。例えば、裁量労働制は、エンジニアやデザイナーなど、法律の定める一定の業務にしか適用できないところ、実際にはこれに当てはまらない業務であるにもかかわらず、裁量労働制を導入している会社も存在しています。このような場合には、裁量労働制自体が認められないので、残業代を全て請求できます。
就業規則で係長は「管理監督者」とみなすと規定されているから、残業代対象外と言われています。
質問
会社の就業規則に係長は「管理監督者」とみなすと規定しています。また就業規則では係長には残業代を支給しないとも規定しています。係長は労働基準法上の管理監督者にみなされるから、残業代を請求できないのでしょうか
回答
係長が労働基準法上の管理監督者にあたるかどうか、つまり法的に残業代の支給対象外として認められるか否かは、前述の労働基準法(41条2号)の規定及び裁判例の基準によって決められます。就業規則の記載の仕方で決ますことではありません。したがって就業規則では、係長は「管理監督者」とみなすと書いてあっても、実際の会社内の地位や権限、勤務実態が管理監督者と認められる要件を満たしていなければ、法的には管理監督者にあたらないので、質問者は残業代を請求できます。
残業代の計算の仕方を、だいたいで良いので教えてください
質問
残業代の計算の仕方を、だいたいで良いので教えてください
回答
残業代は、月当たりの基本給と手当(家族手当や通勤手当等を除く)を足した給料を、月の基本労働期間で割った、時間あたりの給与に割増率と月の残業時間を掛けて算出します。
時間あたりの給与 X 割増率 X 残業時間 = 残業代 です。
割増率は残業した時間帯ごとに計算します。例えば普通の時間外労働では割増率は25%ですが、夜10時以降の深夜残業だとさらに25%加算された50%が割増率になります。休日に出勤した場合は、35%の割増率となり、休日かつ夜10時以降の深夜残業だとさらに25%加算された60%が割増率になります。
もっとも、残業代の請求の時効期間は2年間(労働基準法115条)なので、残業代は過去2年分をさかのぼって請求することのみできることに注意してください。
以下は実際に計算した例です。
例
月給料等が26万円で月60時間残業(内深夜残業20時間)の場合
例えば月の給料と手当の合計が26万円で、月に20日間、1日8時間が所定の労働時間だった場合、時間あたりの賃金は1,625円になります(26万円÷(20X8時間)=1625円)。
その月に合計70時間の残業をしていて、内20時間は深夜残業だったとすると、
通常の残業代は 1625 X 1.25(25%増し)X 40時間 で 81,250円
深夜残業代は 1625 X 1.50(50%増し)X 20時間 で 48,750円
その月は、合計130,000円の残業代が請求できることになります。
仮に、過去2年間、平均して同じような残業状況であったとすると、130,000円X24ヶ月で合計で約3,120,000円の残業代を請求できることになります。
これに加えて、残業代未払いの時から年率6%の金利を遅延損害金として請求できます。さらに、退職した場合には、退職日から年率14.6%の金利を遅延損害金として請求できます(賃金の支払の確保等に関する法律 6条)。
また、裁判になった場合には(労働審判では請求できません)、裁判官の裁量で、未払残業代と同額の付加金も支払わせることを認められる場合があります(労働基準法115条)。これは会社に対する一種の制裁のような制度ですが、認められると残業代が倍額になるので、従業員にとって結構大きな金額となります。どのような場合に付加金が認められるのかは条文上は明らかになっていませんが、過去の裁判例の傾向では、裁判官が会社側の未払いが悪質だと考えた場合には認められるようです。